〔報告〕これで走るの!?リニア新幹線@エセナおおた12/10 (その3)川村晃生さんの講演より

「リニアが直面する難題と訴訟の現状」
川村晃生さん(ストップリニア!訴訟原告団長・慶應義塾大学名誉教授)

(1)ストップ・リニア訴訟の経過と現状
   2016年5月〜2017年11月の間の7回の口頭弁論 
第1回 川村原告団長 関島保雄弁護団共同代表の決意 
   第2回 神奈川県
   第3回 岐阜県
   第4回 山梨県
   第5回 長野県
   第6回 静岡県   
   第7回 愛知県   (・・・これら各地の受ける被害の内容)
   詳細→ http://linearstop.wixsite.com/mysite/blank-6
       原告団HP 
(2)訴訟の問題点 (準備書面の中で)
   (a)鉄道事業法と全国新幹線整備法
・リニアは全幹法(全国新幹線整備法)に基づいて認可されたが、「新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もって国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に利すること(第1条)」、そして、路線の条件として「全国的な幹線鉄道網を形成するにたるもの(3条)」、「全国の中核都市を有機的、効率的に連結するもの(3条)」と規定。
→ただ速度が早いだけでネットワーク性に欠ける。全幹法の目的から離れ、路線の条件を満たしていない。
鉄道事業法では、事業の許可基準(5条1項)として、「その事業の計画が経営上適切であること」、「その事業の計画が輸送の安全上適切であること」、「事業の遂行上適切な計画を有するものであること」などを規定。
リニア新幹線の認可に際して、全幹法ではなく、この鉄道事業法が適用されるべき。「リニアは絶対にペイしない(2013.JR東海社長)」とJR東海自らの発言があり、また無数の断層が走り地震の巣となる南アルプスをトンネルで通過するリニア新幹線地震が起こった時の安全対策に大きな不安が残る。リニア新幹線の事業は経営の適切性と輸送の安全性に欠けている。

   (b)環境影響評価法
      環境の保全を図るため、1)開発計画を決定する前に、環境への影響を事前に調査・予測し、2)複数案を検討し、3)その情報を公表し、公衆の意見表明の機会を与え、4)これらの結果を許認可に反映させるプロセスのことをいう。
JR東海は2011年6月に環境影響評価配慮書を公表、たった3年余りで環境影響評価を完了したが、多くは文献調査で終始し、実地調査の裏付けに乏しく、結果のほとんどに「影響は小さい」、「事後調査を行う」など文言の羅列。住民への情報開示は不十分で、知事意見や住民意見で示された懸念に対する配慮も無く、最後まで環境保全措置に具体性を欠いた。

      トンネル掘削にともなう膨大な発生残土の行方を明らかにせず、地下水への影響も軽視、その保全を確保する姿勢を示さないまま。
JR東海が行った環境影響評価は杜撰、その内容に不備があり、評価のプロセスを適切に踏まなかった。

環境影響評価法33条では、事業が環境の保全について適切な配慮を行っているかどうかを審査しなければならないとある。この審査も事業認可の大切な要件で、JR東海の行った環境影響評価が不十分ならば、国交省の認可は違法である。


(3)事業遂行上の課題
   (a)高架と地下(トンネル) 
      東京〜名古屋間286Kmのうち86%がトンネルだが、高架(地上)
      部分の多くは山梨県
     1.発生土ー全線総計で東京ドーム51個分6359万立方メートル(立米)
      JR東海は全線にわたり、まだ搬出先を明確に示していない。示さ
      れたところも、大井川源流の河原など、土砂災害が懸念される。
      長野ではほとんどの候補自治体が反対表明し、ダンプ公害や残土
      中の有害物質問題が口頭弁論の中でも明らかにされているところ。
      
     2. 水涸れ 
山梨実験線では多くの水涸れが起きて、自然破壊/生き物死滅が発
生した。水の流れが工事で激変した結果、水源喪失したが原状回
      復は困難なため、井戸を掘削したり給水車を回したり補償金を払
ったりして事態を収拾しようとしている。壊された自然は元に戻
らず、静岡では大井川の毎秒2トンの減水を容認せず、全量回復
      出来ない限り工事を認めないと静岡県知事が強く抗議した。

     3.騒音 など
高架の山梨県では、日照権(農産物被害)、騒音振動等の課題。
      航空機や鉄道、幹線道路等は通常の規制基準とは違って、日中70
デシベル以下、夜間65デシベル以下。特例的に新幹線も70デシ
ベルが認められている。(通常住宅地は日中55デシベル、夜間
45デシベル)。しかし、人間生活空間にとって70デシベルは異
常に強い騒音であり、それが早朝から夜間まで、1日200本も通
行するリニア計画は生活環境の破壊以外の何物でもない。


   (b)土地収用
      沿線各地で地権者がJR東海のこれまでの不誠実な対応に不信を募ら
せて、結果的に土地を渡さない決意を表明。中心線測量に入らせな
      い、ボーリング調査をさせないなど。山梨、神奈川では土地(立ち
      木)トラスト運動も。
      
(4)あまり問題にされない景観問題
地上部はおよそ2〜30メートルの高さの橋梁が設置されて、その
      上に8メートル程度のフードや防音用の防音壁が造られる。巨大
      な土管が空間を遮るもので、周囲の景観に与える影響は尋常では
      ない。

   (a)アセスはどうだったか 
      スライドを見ながら、アセス書面で「影響なし」とされている地点
      から、さらに路線に近づいて撮影した写真と比較し、明らかに路
線が目立たない位置、角度での撮影で、アセスを通すための「風景
の切り取り方」。それにもかかわらず「スカイラインの分断はない」
      とか「調和のとれた景観」という評価を下して終わっている。
環境アセスメントそのものも大きな課題で、日本のアセスは民間業者
に委託するため、ー業者はクライアントが計画を実施できるような内
容を作成しなければ、次からの仕事が来ないーという話にならない状
態が改善されず。環境破壊を伴う公共事業等の認可に歯止めがかかっ
ていない。

   (b)現実にはどうなるか 
岐阜県可児市の大萱地区・久々利ような志野焼の古窯をかかえる歴史的風土、景観も、その中央を高架で通すため完全に破壊される。また飯田氏の駅予定地近くの農村景観も地元では残したいいう声があるにもかかわらず、リニアの高架によって分断される。どの地域でも大変な圧迫感と騒音、振動、はるか見渡すのどかな田園風景や、背景の壮大な山々など、景観としての価値は台無しにされていく。