〔報告〕これで走るの!?リニア新幹線@エセナおおた12/10 (その4)「リニアの電磁波問題」懸樋哲夫さん

リニアの電磁波問題   2017/12/10 懸樋
1、 電磁界にリスクがあること
JR東海、電力事業者などは認めていないが、国際的には認知されている。
2、 リニアの実際の磁界強度が明らかにされないこと。
JR東海は測定値をきちんと公表していない。数値がなくて%表示であり、静磁界の基準値を使うなどのごまかし。周波数の数値が出されていないので、ガイドラインに適合しているかどうか不明。
3、 基準値として使っている国際非電離放射線防護委員会・ICNIRPのガイドラインには問題があること。


JR東海が公開しているリニアの遮蔽材の図

国際がん研究機関(IARC)が「変動磁界は発ガンの可能性がある」と認定2001/6
・ ・・・低い強度(0.3〜0.4 マイクロテスラ、μT )以上の商用 周波の磁界への毎日の慢性的ばく露が小児白血病の リスク上昇と関連していることを、疫学研究は一貫して見出している。IARC(国際がん研究機関) は、そのような磁界を「発がん性があるかもしれない」と分類した。




リニアの磁界、そのリスクと規制値 WHOの勧告と日本の対応  
リニアの磁界については健康影響が懸念され、世界的にも高圧送電線などの電力設備から発生する電磁界に関する調査研究が報告され、リスクについて議論が巻き起こった(2000年ごろ)。日本での規制状況は?その過程について振り返れば、リニアの推進に向けた電磁界のリスク隠しが見えてくる。

 2007年、WHO・世界保健機関の『電磁波プロジェクト』は、電力設備の電磁場の健康影響に関するこれまでの調査の最終的な結論として「超低周波電磁場・環境保健基準報告No.238」を公表した(6月18日)。
 この報告の中には「基準」とは言っても何ミリガウスといった具体的な規制の数値が盛り込まれているわけではない。しかしこれまでのWHOのスタンスから大きく踏み出し疫学調査で、微弱なレベルでの電磁場による小児白血病のリスクを認めたのである。
 IARC(国際ガン研究機関)は低周波磁場について「発ガンの可能性あり」と認定していた(2002年)。そしてWHOは「この限定的な証拠に基づく分類は、2002年以降に発表された2つの小児白血病の研究を加えても変わらない。」とし、0.3〜0.4マイクロテスラ(3〜4ミリガウス)の小児白血病リスクはプール解析が多数に基づいていることで得られた結果が偶然である確率は低いと思われる、としている。
 また報告では「予防原則」を推奨していた。『たとえば、主要な超低周波電磁波の発生源の位置を決める際、産業界と地方行政と市民との間でより良い協議をはかるなど地方当局は、超低周波電磁波を発生する施設の建設計画の立て方を改善すべきである。』と記されている。結論的には『電力の健康、社会、経済的利益が侵されないという条件の下で、曝露を減らすための極めて低コストの予防的措置を講じることは合理的であり、正当化される。』としている。
 WHOの報告は各国政府に対策を勧告しており、日本政府もこれを受けて、規制値の制定に向け、動きを見せた。このころまで電力会社は「50,000ミリガウス(あるいは5,000ミリガウス)がWHOの基準」などと語ってきたが住民の反発をまねくばかりで、この主張は通用しなくなっていた。

 国内での研究報告
 それより9年前には文部科学省(調査開始当時は科学技術庁)が予算をつけ国立環境研究所が中心となった大規模疫学調査が2003年に報告されていた。99 年から3年間に11の機関が参加し、総額7億2125万円の費用が投じられたこの調査では国立環境研究所の兜真徳主任研究員をリーダーとして実施されたもので、WHOの電磁場調査研究にも協力している。
 この報告によると、全国245の病院ネットで2002 年3月までの約3年間の小児白血病約1440例から最終的に症例約310例を調査対象としその結果、子供部屋の平均磁界レベルが、0.4μT(4ミリガウス)以上でリスクが有意に上昇するパターンを示すこと、が明らかにされた。この報告は2006年8月に国際的な専門誌『インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー』に掲載された。そして07年6月にはWHOの環境保健基準でもその内容が詳しく報告されている。
 しかしその結果を日本の政府は無視し、あるいは葬り去ることをしてきた。(この経緯については松本健造著「告発・電磁波公害」に詳しい。)また、読売新聞(2006年11月19日)にも「葬られた疫学からの警鐘」として解説されている。国と電力会社は「電磁波は健康影響なし」をPRするために「電磁界情報センター」を開設している(2008年7月)。
 国はWHOの勧告を受けなんの基準もない状態は終りにしなければならなくなり、経済産業省原子力安全保安院がワーキンググループを作り、検討を進めた。そして経済産業省は2011年3月31日に「電気設備に関する技術基準を定める省令」を改正、高圧線、変電所など電気設備から生じる超低周波磁界の規制値を、200マイクロテスラ(200μT)以下と定めた(2011年10月施行)。

リニアの電磁場
国交省は低い磁界のリスクに関しては一切検証を行なっていない。JR東海の説明資料にも国内の基準などは使わず、もっぱら国際非電離放射線防護委員会・ICNIRP(注)のガイドラインを使って、「基準値以下になる」とくり返していた。その数値は具体的な測定値ではなく「計算値」だった。しかも折れ線グラフで点や線で示しているだけの図で数字が書かれていない。そして曰く「これまでの技術開発の結果、車体への磁気シールドの設置など磁界の低減方策を取ることにより、磁界の影響を国際的なガイドライン(ICNIRPのこと)を下回る水準に抑制することは可能・・・」というもので事実として基準以下なのかどうか明らかにするのではなく、「問題ない」としたものだ。結局、実測値を「公開」したのは2013年12月になってからである。それもまた一部の数値のみで、周波数別の数値などがなく基準値に適合するのかどうかも確認できないもの。

 なぜJR東海は数値を明らかにしないのか
 このようになぜJR東海はリニアの磁界の乗客への影響について、数値さえ明らかにせずに「基準値以下」という説明をしているのか?また国交省はそれでも認可をしているのはなぜなのか?
 また、基準値としては経産省がリニア建設に間に合わせるかのように作った基準値は一切使わず、ひたすらICNIRPのガイドラインをのみ引用しているのも解せない。
 そのわけは、実測値は基準値越えになっていることが考えられる。または「基準値」内に収まっていてもあまりにぎりぎりで、今後リニアの構造の変化や場所によっては越えてしまうような数値であれば公開できない、ということもありうるだろう。また、あまりにも経産省の基準制定過程、その前の文部科学省の報告隠蔽の実際がひどすぎるので、その追及も避けたいからだと考えられる。
 その数値は実際には基準値内ではあってもWHOなどが認めているリスクに対してはあまりにも大きいため、そこから先のリスクの議論をしたくない、ということのようだ。
(注)ICNIRP・国際非電離放射線防護委員会:ICRP(国際放射線防護委員会)から生まれた組織。ICRP原発などの放射線の基準値を作っているが基本的に原子力業界のために設定されている。ICNIRPもこれと同様、電力産業界などの活動に都合のよいように作られているもので、住民の命と健康を守るための基準となっていないことが批判されている。

磁界規制値制定(経産省)の経過
2003/6 : 兜研究報告(文部科学省
    0.4μTで小児白血病2倍、脳腫瘍10倍
2007/6 : WHOの勧告「環境保健基準報告」
    12月経産省WGが報告「100μT」へ
2008/7 :「電磁界情報センター」設立
2010/ : ICNIRPがガイドラインを改定、200μT
2011/3 : 原子力安全・保安院が200μT 規制値
2011/5 : 国交省リニア中央新幹線にGOサイン



JR東海が公開したリニアの測定値

変動磁界―静磁界
  静磁界:地球の磁気、棒磁石などから生じる磁界
 変動磁界:交流電流/回転するモーターなどから生じる

 静磁界とは、地球の磁気などと同様のもので、変動磁界と区別されています。
 変動磁界とは時間変化する磁界のことで、交流電流から生じる磁気やモーターの回転によって生じるものです。高圧線や変電設備の付近にも生じます。1秒に何回変化、振動するかで周波数となります。
 地磁気は生命誕生から私たち人間の進化の過程もその中にいます。むしろリスクより生命にとって必要なものかもしれません。しかし変動磁界は自然界には存在しません。

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