東京原告井上さんの口頭弁論 第8回ストップ・リニア!訴訟にて

1月19日 東京地裁 

 私は品川区に居住する井上八重子と申します。

1 原告になろうと思った時のこと
私は、現在品川区に居住しておりますが、区議会議員としていろいろと住民のお話を聞いてきました。住民の皆さんは郷土を愛し、良くしてゆこうという大変前向きな方々ばかりで、区議として活動していた時は、大変勇気づけられたものでした。
そのような都区部に、リニア中央新幹線大深度地下を通るという話を聞き、わが耳を疑いました。色々と話を聞くと、リニアは「早い」という以外に取柄のない、しかもこれまでにない磁力で車体を浮かせて走るシステムでの新幹線だということです。電磁波については、色々なところで健康被害が疑われているという話もあり、本当に安全なシステムなのか、また、このような「世界で初めての運行方法」で、「これから先工事に何年もかかる工事」が環境影響評価法で環境の保全についてきちんと評価できているのだろうか、将来にわたり健康で文化的な生活が営めるよう「あらかじめ環境影響評価を行う」ことができたのか大変疑問に思い、不安になり原告になったのです。
そこで何度かにわたって行われた、環境影響評価などに関するJR東海の説明会に参加しましたが、そこでの説明は、私たち住民が将来にわたり「健康で文化的な生活」が営めるように配慮して評価が行われたとは思えない内容ばかりでした。これらを認めるなら、すべての健康や環境保全についての不安や疑問点は、「法令に従い適正に対処する」ことで解決してしまいます。JR東海は、私たち住民の疑問に具体的に答えてはくれません。
法が求めているのは、事業者に対し、将来にわたり健康で文化的な生活が営めるよう事業に関わる環境の保全をどうやって講じるかということに他なりません。

2 それぞれの課題で申し上げます。

(1)まず、洗足池の水涸れの不安についてです。【写真】
  リニアのルートを見ますと、大田区では洗足池の端から敷地までわずか100mという極めて近い地下を通ります。
  洗足池は、 池の北側に広がる台地部に降った雨が地下に浸透し、清水窪から湧き出ている湧水と、雨水を砕石水路と呼ぶ水路に集め、池の大切な水源となっています。
池の周辺は緑豊かな地域で、大田区内でも貴重な自然環境を残す地域となっています。そのため、平成元年、東京都から大田区に移管されて以降、池周辺の整備だけでなく、洗足流れと呼ばれる池から流れ出る水路を整備するなど、自然環境の保全に努めてきました。その甲斐あって、洗足池や洗足流れには、カワセミの雛が孵るだけでなく、近年は猛禽類のツミなども見られるようになり、近隣の住民だけでなく、多くの人たちの憩いの場になっています。
池の水深は2m程度で、立て坑を掘り進めれば、当然帯水層を突き破ることになりますから、池の水がなくなってしまうのではないかと心配です。1967年9月上野の不忍池は地下鉄千代田線の建設工事に伴う土砂崩れで池の底が抜け、約3万トンの水がトンネルに流れ込む事故が起きています。
同じことが起これば、長い年月をかけて住民が守り育ててきた池とその周辺の環境を壊してしまい、池の底をコンクリートで固めた味気ないプールになってしまいます。
しかも、工事との因果関係が証明できなければ、その修理に税金を使うことになるかもしれません。周辺の地質調査を十分に行うとともに、その結果を示し、地下の地層の状況や帯水層との関係について示しながら、工事説明をすべきです。
説明会ですが、東雪谷社宅の解体工事は、近隣わずか10m範囲でしたが、リニア中央新幹線の工事は、単なる民間事業者の解体工事とは全く異なります。環境アセスメントを行わなければならないほどに、その影響が大きく、かつ、将来に向けても長期間にわたりその影響を及ぼす可能性のある工事です。しかも、私たちの税金を3兆円も無利子で借りることにしたのですから、当然、国民であれば誰でも説明を受けられる状況にすべきです。
今後行う工事説明会は、過去2回ほど行った、近隣10m範囲や単なる任意団体でしかない町会のみ対象ではなく、地域住民を対象とし、少なくとも、大田区報、JR東海大田区ホームページのトップページで知らせるべきです。

(2)次にヒ素に関する問題です。【写真】
  大深度地下トンネルのことについてはいくつも大きな問題がありますが、まずヒ素による地下の土壌、水汚染の問題について述べます。
  JR東海の評価書には東京都の過去の調査の報告が引用され、トンネル工事予定地からヒ素など重金属が溶出している試験結果が出されています。調査地点のうちでヒ素が特に基準値を超えている所を拾うとお示しする表のようになります。トンネル工事予定ルートの場所から環境基準0.01mg/Lを大幅に超えるヒ素が出ているのです。



 このことについて、JR東海は、「有害な重金属を含む土壌については別に管理し、捨て場を決める」と言っています。また大田区での説明会では「汚染された土壌を洗浄する方法を使用する」と答えました。その具体的な方法についてJR東海は明らかにせず、もしも土壌からヒ素を除去するならば、その技術は、大学などで「水溶性有機薬剤吸着法」として専門誌で報じられているもののまだ研究段階で実用化されていない、と述べる専門家もいます。「ヒ素はよくある物質」などという説もありますが、地下水、土壌の汚染についての安易な処分の姿勢は重大な生活環境破壊をもたらす危険性があります。環境保全の観点からは、掘る前に汚染の発生しないよう方法を採用すべきです。

(3)残土搬出及び交通渋滞です【写真】
品川基点から川崎の等々力までの9.2kmのトンネル工事から排出される残土は試算ではおよそ200万㎥と言われており、このすべての量が、非常口となる品川の立て坑から排出されることになっています。ピーク時には1日約840台もの車が出入りすることになり、渋滞や大気汚染など近隣住民の生活への影響は計り知れません。
  そして、この現場の出入口からダンプは都道317号線にまず出ますがここはわずか1車線の道路です。ここから第一京浜に出ますが、普段でもこの道路の交通量は多く、さらに右折するには相当な時間を要します。手前にある消防署の前を塞ぎ混乱が予想されます。
また出入口の直近には品川学園という小中一貫の学校があり、約1200名の児童生徒が在籍しており、排出経路の道路に面して校庭があります。12年間にわたって大型車両が行きかう道路わきの校庭で、子どもたちは授業を強いられます。車の排気ガスによる健康被害が懸念されます。そしてこのような事実を地元住民も児童生徒の保護者も知らされていません。

(4)東雪谷避難口発生土搬出問題【写真】
  大田の非常口からは、立て坑部分の残土だけ搬出するということですが、それでもピーク時は一時間40台往復で80台が出入りする、とのことです。その残土の行方は未だに不明です。搬出経路は、当初の案から変えて、環八経由になる可能性が高いと見られています。その場合でも、台数が多いですから、車の待機場所がどこになるか、いずれにせよ渋滞は必至です。また大気汚染も心配されます。閑静な住宅街の生活道路がダンプの通行で混乱することを大田区のほとんどの住民はまだ知らないのです。情報が出されずに工事が始められたため、ルート上またはその近隣では最近ようやく知るに至ったという住民も多く、住民合意での工事と言うにはほど遠い状態です。従って、そのような東京の被害住民を代表し原告の訴えとして申し述べたものです。

3 終わりに
現在、リニアの談合が社会問題になり、これほどの批判を浴びているのも、私たちの税金を無利子で貸す政府の財政投融資が行われたからです。そうした意味では、公益性があるから、と大深度地下法の適用を受けて地上住民への説明を免れてきたリニア中央新幹線ですが、政府の財政投融資が行われた今、私たちは、さらに、厳しい目で、リニア中央新幹線事業をチェックし、問題点を厳しく改めさせることができる立場にあることを確認できたと言えます。以上で私の意見陳述を終わります。
以上