リニア・市民ネット「通信・記事」

国交省JR東海にリニア建設を指示
総建設費9兆300億円、さらに地上駅350億円、地下駅2200億円の巨大プロジェクト
〜2014年着工前に、今こそ過剰なエネルギー浪費型のリニア計画を問い直そう〜
 
            
国交省JR東海にリニア建設を指示
 JR東海が2027年に東京−名古屋間を40分、2045年に東京―大阪間を67分で、南アルプス直下を貫通する「直線ルート」での開業を目指すリニア中央新幹線の建設指示が、5月27日に国交省より出された。昨年より審議を継続してきた中央新幹線小委員会は、3月は東日本大震災の対応に追われ一時中断。当初4月中に予定されていた答申が、5月にずれこんだ。震災後、「リニアの耐震性」が新たな議題として上がったが、新幹線と同等の基準で作られたリニアには、追加対策の必要はないとの見解。JR東海の「東日本大震災の経営に対する影響は一時的なものであり、建設を完遂する計画には支障しない」「東海地震に備えた東海道新幹線のバイパスの必要性」との揺るぎない主張のもと、客観的な検証やその必要性から答申が延長されることもなく、最終答申案はとりまとめられた。
答申案公表後に行われたパブリックコメントでは、提出意見数888件(個人:809件、団体:79件)のうち、中央新幹線の整備に関する意見としては、「早期に整備すべき」が16件、「整備に反対、計画を中止、または再検討すべき」648件と、反対意見が圧倒数を占めた。(12月の「中間とりまとめ」では賛成が83件、反対が142件)「震災の影響が収まっておらず、新たな大規模事業を進めるような社会的状況ではない」「中央新幹線の整備にかかる費用、エネルギー、人的資源などは、まずは東北地方をはじめとする被災地の復興にあてるべき」「福島第一原発事故が収束しておらず、今後の電力供給が不透明であるため」やリニアの安全性や環境破壊、国民の財政負担を危惧する多くの意見が寄せられていた。
今後JR東海国交省の答申を受け、6月より中間駅の設置場所や建設費の負担割合などについて、沿線自治体と協議を進める予定。(答申には、沿線自治体の強い要望を受け、中間駅に関するJR東海自治体との協議に国が関与することも明記された。)また、12月をめどに環境影響評価(アセスメント)開始を検討。2014年の本格着工に向け、ゼネコン各社のリニア受注をめぐる競争も熱を帯びてくるだろう。

リニアは本当に未来に必要な乗りものなのか。リニア計画の徹底した検証を! 

 JR東海が全額自己負担で整備する方針を打ち出してから、早3年。この間、国交省の1年間の審議をはじめ、「そもそも中央新幹線は必要か」「超電導リニアの技術・安全評価」というJR東海の計画の目的や需要予測、事業遂行能力や技術力への徹底した客観的な検証の実施や、実験線の実測値が一切公開されることなく、国民的議論の展開も乏しく、多くの疑問に包まれたまま、いよいよリニア計画が決定した。
東日本大震災から2か月。原発事故の最悪の事態とされるメルトダウンを起こした福島第一原発震災は、原発の「安全神話」を崩壊させ、東京電力などの安全対策のずさんさを露呈し、放射能放出によって日本の暮らしと子どもたちの未来を一変させた。社会が原発そのものの安全性や企業の危機管理対策とは何かという議論に直面している中、「新幹線の3倍のエネルギー需要」とされる原発依存の過剰なエネルギー浪費、情報が不透明なJR東海のリニア計画を、今こそ原発問題と同等に問い直していく動きが急務である。さらに、JR東海財政破綻、巨額な駅設置費の自治体負担、南アルプス20キロ貫通、大深度地下化(全線トンネル8割)による未曾有の自然生態系破壊、電磁波の人体への影響などの大いなる危惧がある。リニアは本当にそれらを代償にしてまで、日本の未来にとって必要な乗り物なのか。リニア計画には、これらを未然に回避するために「中央新幹線計画を中止にする」という大きな選択の余地も残されている。2014年本格着工を目前に、少しでも計画を先延ばしに、そして中止に向けて、団体でも取り組んでいきたい。(全国自然保護連合「全国自然通信 110号」掲載記事・記 リニア・市民ネット 藤田 )

<参考情報>
○中間駅の位置と建設費用負担 

 発着駅:東京品川駅・新大阪駅
 中間駅:地上駅350億円 山梨、長野、岐阜、三重 
 地下駅2200億円  神奈川、奈良の各県に1駅

○答申案発表後、はじめて出されたリニアの電力消費量

◇2027年首都圏〜中京圏開業時の想定
・走行の前提条件
 ピーク時:5本/時間 所要時間:40分
・ピーク時の消費電力:約27万kW

2045年首都圏〜関西圏開業時の想定
・走行の前提条件 
 ピーク時:8本/時間 所要時間:67分
・ピーク時の消費電力:約74万kW

・500km/h走行時の超電導リニア1列車の想定消費電力は、約 3.5万kW。

中央新幹線超電導リニア)の消費電力の試算について(第20回 中央新幹線小委員会配布資料)