リニア・市民ネット「神奈川県知事に申し入れ」

神奈川県黒岩知事への申し入れ 
 
 リニア・市民ネットで、今年度4月より就任した神奈川県黒岩知事への申し入れを行いました。

2011年7月11日
神奈川県知事 黒岩 祐治 様
                  
リニア・市民ネット
代表 川 村  晃 生

リニア新幹線中間駅の神奈川県内誘致の見直しを求めます
 
 知事就任以来の県政の刷新に向けての御尽力と自然エネルギーを中心に据えた社会の構築を目指すリーダーシップに敬意を表します。

 私たちリニア・市民ネットは、リニア中央新幹線計画を◇自然・環境への影響 ◇エネルギー・技術問題 ◇地域の経済性 ◇JR東海の財源と採算性 ◇電磁波の影響 などの観点から検証し、問い直すことを目的に、2009年3月に発足した市民団体で、東京、神奈川、山梨、長野、千葉など計画沿線の市民と賛同団体が参加しています(添付の当団体ホームページ=資料1)。

 国土交通省は5月27日、全国新幹線鉄道整備法第8条の規定に基づき、JR東海に対し、中央新幹線(東京都〜大阪市間)建設の指示を出しました。超電導磁気浮上方式のリニアモーターカーによる中央新幹線は、従来の新幹線の3〜5倍の電力を必要とするものと言われています。福島第一原発の事故により、エネルギー不足に直面し、今後、再生可能な自然エネルギーの利用に大きく舵を切るにしても、原子力発電を一定規模・一定期間継続させるにしても、必要な電力の確保が危うい状態が長引くことが確実視されるこの時期にあって、国交省が「まるで福島第一原発の事故などなかったかのように」GOサインを出したことは、国政がいかに硬直化したものであるかを物語って余りあるものでした。

 国交省の指示を受けたJR東海は、6月7日、リニア中央新幹線の中央駅を相模原市内に設置する意向を正式に表明しました。神奈川県は、長年にわたりリニア中央新幹線の建設促進と県内駅誘致を施策として掲げ、県土整備局環境共生都市部交通企画課にリニア中央新幹線グループを設けています。知事は、JR東海の意向表明の翌日の定例記者会見で、1.2200億円と推定される県内地下駅の設置費用の負担については、県民および相模原市民の納得が得られるよう折り合いをつけることが基本である 2.新駅ができさえすれば地域が再生するのではなく、その駅で多くの人が降りるような街づくりが必要である と述べ、ストロー効果に言及しつつ「新駅ができれば地元が潤う」という短絡的な見方とは一線を画した見解を示されました。

 そこで私たちは、脱原発を選挙公約に掲げ、目下原発に代わる太陽光エネルギーの創出に邁進されている知事が、「限られた電力を如何に使うか」という視点からリニア中央新幹線建設計画に一石を投じてくださることを願って、下記の要望をいたします。

要望項目  

1 
沿線自治体としてJR東海に対し、リニア中央新幹線の建設および操業見込み経費と採算性、自然環境への影響、技術的な安全性、電力使用量、リニアが発する電磁波の身体への影響などについて、徹底した情報開示を求めてください。

2 
リニア中央新幹線中間駅の県内誘致施策を見直してください。

要望の理由と補足

リニア中央新幹線計画の無駄、非採算性、危険性についてはいくつもの観点から論じることができますが、本件申入れにおいては、要望の理由として特に次の2点を指摘したいと存じます。


1.情報公開が極めて不十分であること

国の中央新幹線小委員会は、消費電力問題を一切議論せず、JR東海も市民団体からの情報開示の求めに応じないできましたが、本年5月12日の中央新幹線小委員会(第20回)で最終答申案に対するパブリックコメントの結果が報告された中で、リニア中央新幹線の「消費電力の試算」が初めて示されました(同委員会 議事録抜粋および配付資料<参考5>=資料2)。
しかし、ここに示された「ピーク時の消費電力」は、リニア中央新幹線走行に必要な電力の設備容量を算出するための基礎になる数値である「総瞬時ピーク電力」を、走行本数の多い時間帯の全システムが使う総電力量にすりかえてしまったものです。建設のGOサインを出す直前になって初めて明らかにされた消費電力についての数値がトリックに過ぎなかったということは、中央新幹線小委員会が、」消費電力問題について何も検討せずに最終答申を出してしまったことに他なりません。


2.リニアが過剰なエネルギーを要することは間違いないこと

上述のようにJR東海リニア中央新幹線に使う電力量を明らかしていませんが、
◇ 1989年に朝日新聞紙上で電力消費についての論争があった際、リニアの提唱者であった元国鉄技師が「新幹線の40倍」として浪費構造を批判したのに対し、鉄道総合技術研究所理事長の尾関雅則氏が「東京―大阪間のシステム設計では、新幹線の3倍を計画している」と反論しています。一方、本年5月の中央新幹線小委員会の議事録には「現在の東海道新幹線のピーク時に使っている電力とおおむね同等の水準」という潮崎技術開発室長の発言がありますが、総瞬時ピーク電力への言及はなく、根拠に欠けます。

◇ 仮にドイツのトランスラピッドを例に試算してみると、東海道新幹線とほぼ同じだけ走らせた場合、その電力使用量は544万kW/日となり、原発5基分の電力が必要という計算になります。(山梨県立大学の学長、伊藤洋氏がトランスラピッドの1両当たり10MW/50人、を基礎に試算)
東京電力山梨リニア実験線の変電所等に送電するために、新潟県柏崎刈羽原子力発電所から山梨県に超高圧100万ボルト送電線の鉄塔工事を進め、すでに新潟、群馬、長野、山梨にわたって数百基に及ぶ膨大な数の送電網が建設されています。リニアが電力需要の一つとして原発増設の理由とされました。

むすび

リニア中央新幹線JR東海の単独事業として進められていますが、事業が破綻しJR東海が立ち行かなくなった場合には、第二のJALと化し事業破綻の尻拭いに巨額の税金が投入されることになります。本来なら国が事業計画のチェックを厳正に行うべきところですが、その機能を果たしていません。このような状況にあっては、関係自治体がJR東海に情報開示を求め、それを県民・市民に周知させ、その意見を汲み上げた上で「建設計画促進と県内駅誘致」の方針を維持するか、撤回するかを判断すべきではないでしょうか。
県はJR東海に対し、相模原市域へのリニア新幹線中間駅の設置と寒川町倉見地区への東海道新幹線新駅の設置を「お願い」しており、駅設置計画エリアの企業・商業関係者とその周辺において、リニア中央新幹線歓迎の声があるのは事実です。しかし、県内全体で見れば県民のリニア中央新幹線に対する関心は極めて低いものです。先の定例記者会見でストロー効果に言及された知事におかれては、県内全域の状況を見極め、前知事の既定路線にとらわれない判断をしていただきたいと考えます。
             
以上