リニア・市民ネット「配慮書・意見書」

JR東海中央新幹線(東京・名古屋市間)計画段階環境配慮書」に対する意見書提出

 JR東海が6月7日に、中間駅の公表とともに発表した「計画段階環境配慮書」に対して、リニア中央新幹線の必要性を問い、懸念される環境配慮事項に検証を求める見地から、意見書を提出しました。

***以下全文掲載

 本配慮書では、事業者の自主的な環境配慮が極めて不十分であり、公衆が判断するための情報が適切に提供されていないものとして、以下の意見を提出する。また事業者は、リニア中央新幹線計画そのものが大規模で急激な環境改変であることを重く受け止め、今後の一連の環境アセスメントの手続きにおいて、情報公開や住民参加、幅広い専門家の関与が十分に行われた透明性の確保と誠意ある応対に努めることを求める。

戦略的環境アセスメントの必須条件である「複数案の比較評価」が適切な形式で行われていない(第4章)

・事業実施想定区域の選定において、複数案を検討し、環境影響の程度を比較・ 考察すべき。

・なるべく直線、しかも実験線を活用というのであれば、このルート以外に考え られないことになる。そもそも環境への影響を最小にし、他に適切な代替案を 模索することが前提にされていない。「できる限り配慮する」という表現で  は、今後環境への影響が、どこまで、どのように回避、又は低減が検討される のかが、極めて曖昧で不透明である。

・できるだけ直線を前提として、活断層、河川を通過する場合は、できる限り短 くという方法はあり得ないはずである。

・本配慮書で長野県の中間駅とルート選定部分が除外されていることについて

 中間駅の決定・発表以前に、トンネル計画の飯田市の水源地への影響の考察を 含め、複数案を提示しながら環境影響と程度を比較検討して示さない理由はな ぜか。一連の環境アセスメントは、環境影響の程度が著しいものとなるおそれ を回避するための手続きであるにも関わらず、事業者側がその情報開示の責務 を果たしていない。

○自然環境や生活環境への影響が主観的かつ限定的に取りまとめられ、環境配慮の検討の幅が狭められている(4−2−2)

・環境配慮事項を幅広く整理・検討していく段階において、「生活環境や自然環 境への影響をほとんどない、小さい、あるいはない」とする判断は、事業者側 の極めて主観的かつ限定的な見解である。ここには環境への配慮を問題として 認識する姿勢が見られず、今後の一連の環境アセスメントを実施する上での、 合理的で公正な判断のための用件が設定されていない。

・特に「主にトンネルとなることから、生活環境や自然環境への影響は小さいと 考えられる」という記述の根拠は何か。山梨実験線でのトンネル掘削による地 下水の枯渇が全く反省されず、トンネル化を推し進めることは同様の問題を発 生させる。「トンネル工事及び併用時において、地下水の坑内への流出やトン ネル内への漏水が想定され、これに伴う周辺地域における水源等の減水や枯渇 が懸念される」ことは、環境省も意見を提出している最重要配慮事項である。

○環境法(環境汚染の防止・廃棄物の処理・自然保護に関する個別法・生物多様 性基本法など)との整合性が取られていない(4−2−2)(6−4−2)

・「概略ルート選定における制約等」において、「土壌汚染については、法令等 に基づいて調査・対策等」「トンネル掘削に伴う建設発生土として排出する場 合は、法令等に基づき適切に処置する」とされているが、その他の事項につい ては配慮に留まり、多くの環境法との整合性が積極的に取られていない。(4 −2−2)

・関連するすべての法令が列挙されていない。(6−4−2)

○社会・経済面の評価から、中央新幹線計画の意義・必要性の検討を踏まえた「ノーアクション案」(事業を行わない案)についても提示すべき(4章)

中央新幹線は、物理的にも機能的にも国民生活及び国家経済に大きな影響を与 えるプロジェクトであり、その意義・必要性を十分に検討することが必要とさ れている。今般の東日本大震災福島第一原発震災を受け、原発に依存しない 国のエネルギー政策の転換、地震活動期への移行、来たるべき東海大地震発生 時の安全対策の強化など、社会環境や経済環境が大きく変化している。

・本配慮書では、戦略的環境アセスメントの観点から、リニアの安全性と中央新 幹線の必要性を再検討すること、東海道新幹線の老朽化対策を充実させること も評価に含めるべきだ。

○従来の新幹線とは異なる「超電導リニア」の技術的特性(磁気浮上・時速500キロで走行・ガイドウェイ使用・車掌無人など)や実測値、技術的限界に基づいた南アルプスルートにおける環境への影響、回避、又は低減できる取り組みについての分かりやすい説明や資料が全く不十分である。(第6章)

・今後のアセスメントを適切に実施するためには、山梨実験線の電磁波や電力需 要量、地震・安全対策、南アルプスルートを想定した耐震基準の実測値等情報 公開が必須である。現在出されていない資料については、積極的に開示されな ければならない。

・電磁波については、山梨実験線において実際に計測された「実測結果」が一切 公開されていない。その根拠となる実測値も一切示さずに、「対策の考え方」 「対策方法」が記述されているが、これでは安全かどうかを全く判断すること ができない。(6−33・資料―23)

〇今後より早期に、地域住民や幅広い専門家の意見聴取に努めるべき

国交省の委員会のパブリックコメントの実施においても、寄せられた多くの意 見や不安・疑問に対して1つ1つ回答が得られない等、住民や専門家が発言で きる場が一切なかった。また、整備計画決定前後において、事業者の情報の公 表は、都道府県や沿線自治体のリニア期成同盟レベルに限定され、沿線住民が 計画の説明を得る機会は全く設けられてこなかった。

・今後の一連の環境アセスメントの手続きにおいて、より早期のより地域住民に 開かれた説明会及び公聴会、アンケート調査、公開会議の実施など、情報公開 や住民参画による透明性の確保に努めることを強く要望する。

<環境影響評価項目の追加要望>(5−3−2)

 リニア中央新幹線計画の一連の環境アセスメントにおいて、より社会的、経済的、環境的側面を考察するために、下記の評価項目を付加すべきである。これらの事項は、今後日本に「超電導リニア」を導入する上で、これまでも多くの公衆、専門家からも危惧されている事項であり、選定に値すると考える。

(※下記の項目は、自治体の条例に基づく独自のアセスメント項目から選定した)

◆磁界→「電磁波・電磁界」に

・「主な環境配慮事項」にも、影響が全くないことが示されているが、幅広い専 門家の関与により、乗客や周辺住民の人体への健康影響や安全性について評  価・検討されるべき。(本配慮書要約)

・土壌環境のみならず、「電磁波・電磁界」を評価項目として、乗客や周辺住民 の人体への健康影響も検討・評価すべき。

◆廃棄物等→「廃棄物・残土」に

南アルプス長大トンネル30キロ、全行程の8割がトンネルとされるリニア計画 において、廃棄物等ではなく、「廃棄物と残土」と環境影響評価項目を明確に 位置付けるべき。

・トンネル掘削による超膨大な廃土量を明らかにし、その処理方法を具体的に示 すべきである。

地震時等の災害(地震等の自然災害時あるいは事故時における災害及び二次災害における安全対策)

国交省の委員会では、リニアの新幹線と同基準の技術であることを根拠に、東 日本大震災級の地震が発生した際にも、リニアの乗客の安全は確保できると結 論付けた。超電導リニアは「地震時などにおいて脱線現象を想定しない」「大 深度地下での火災等の異常時における対応」が既に資料として出ているが、地 震によるガイドウェイの亀裂や破損の危険性については全く言及されていな  い。

・「南アルプス周辺の100年レベルの隆起量は20〜40?」と報告されている一  方、「隆起速度については、日本国内で突出した値ではないなど、トンネル設 置にあたっての制約にならない」との見解が示されている。(4−10)

― 来たるべき東海地震においては、山梨や南信地域など南アルプスルートも被  害をかなり大きく受けることが想定される。また、南アルプスルートは現在  も活動している大断層であり、活断層や地盤隆起等の自然災害により、この  ような箇所で地震発生時には、強い揺れと地震断層により地盤の食い違いが  発生する。

― 既に営業運転に支障のない技術レベルに到達しているとされる超電導リニア  の、南アルプスルートにおけるガイドウェイの安全性について評価・検討す  べき。また、南アルプス長大トンネルにおける「地震発生時の安全対応策」  を評価・検討すべき。

◆エネルギー(温室効果ガスの発生も含む、建設時・運転時のエネルギー総消費量)

東日本大震災福島第一原子力発電所の事故発生、原発依存の国のエネルギー 政策の転換等、一連の国内動向や今後の方向性も見据え、「エネルギー消費は 新幹線の3倍」とされる超電導リニアのエネルギー消費を検討し、新幹線との 比較検討からも評価すべきである。

・リニアの運転時の電力需要のみならず、大深度地下南アルプス長大トンネル を含むトンネル掘削等や大阪駅までの延伸も含め、この先数十年に及ぶ建設に かかるエネルギー総消費量も、環境影響評価項目に追加するべき。

◆地域の分断

・在来線の有効性やリニア中央新幹線の開通で予測されるストロー効果につい  て、多くの前例から検討されるべき。

<その他 環境影響配慮への要望事項>

○動物・植物・生態系の評価を、鉄道併用時に行わないのは不備である。(5−3−1)

○景観もまた、鉄道併用時の影響を考慮すべきである。(5−3−1)


○立坑はどれくらいの数が掘られるのか、明らかにすべきである。(4−2)

南アルプスのトンネル坑口の長野側は、土砂崩落地であり、その土止めをいくらしても、大地震の時などは崩壊することが明らかである。その影響評価は可能か。(4−10)