「リニアの原罪ー速いことはよいことか」漱石や志賀直哉からリニアを批判する


[報告]
                    11/26(土)@大森カフェ・ヴェルダ

「リニアを止めるために 訴訟の課題と意義」
              川村晃生さん(訴訟原告団長)


■「リニアの原罪ー速いことはよいことか」


1 福沢諭吉「民情一新」1879(明治12)年 より
鉄道や通信の普及により人々の暮らしが複雑化し忙しくなっているだろうことを
すでに暗示。文明化への危惧が、明治の福沢諭吉の記述の中にある。

2 夏目漱石現代日本の開花」1911(明治44)年
漱石はロンドンへ行って3つの発見をした。

(1)産業革命の真っ只中で咳をすると真っ黒の痰が出る、環境破壊への気づき
(2)仕事に忙しくて文学を楽しむゆとりもない、近代化文明化は人間を忙しくさせる
 =エンデの「モモ」の時間泥棒に通じる気づき
(3)金が力を持つもの、金持ちが勢力を得たこと。「金持ちはたいてい無学無智野鄙(やひ)*であること」。
 *野鄙(下品で洗練された感じのないもの)経済;金儲けが生きる目的になってしまった

この3点はその後の小説のテーマとなる。「文明とは何か」。

そして「環境破壊、忙しさ、金が力」3つの発見は現在のリニアに通じる。


11/10の参議院国土交通委員会で行なった参考人弁論が記事になった。
「今の文明のレベルは人間の身の丈を超えている。心臓のリズムを超えるようなスピードが果たして
 人間に幸福をもたらすのかどうか」川村晃生。(「金曜アンテナ」記事)

遡れば田中角栄の列島改造論により、日本列島全体に環境破壊のダメージを受けている。
漱石は「文明の開花」は生活の程度が上がる一方で、「生存の苦痛」を伴うことを発見している。
例えばサラリーマンはのんびり一泊出張して仕事をしてきたものが、新幹線ができてからは日帰りが可能になり、
そうしないと他者(他社)との競争に勝てなくなっている。

スピードとは競争が進むこと、ひたすら進歩すればいいのではないぞ!と言っている。

このように諭吉の問題提起したテーマを受け、のちに漱石が小説にしていることに感銘を受ける。

3 夏目漱石我輩は猫である」1905〜1906(明治38〜39)年
金田というその名も皮肉のような女性が登場、まさしく「野鄙」な人物像。

4 夏目漱石「野分」1907(明治40)年
石油・炭鉱の町 資本と対決して破れていく主人公を描く。
金への批判、漱石は文学への報酬をきちんとしろと提言している。

5 夏目漱石「行人」1913(大正2)年
長野一郎という人物を通して、文明によるノイローゼの表出を描く。
「徒歩から人力車、人力車から馬車、馬車から汽車、汽車から自動車、それから航空船、それから飛行機と、
どこまで行っても休ませてくれない。どこまで伴(つ)れていかれるかわからない。実に恐ろしい」。
飛行機のその先にはもちろんリニアがある。

6 志賀直哉「暗夜行路」1928(昭和3)年  
人間を見ている。哲学と文学の社会における意味、役割というものを考える。
「人間が空を飛び、魚のように水中を行くという事は、果たして自然の意志であろうか。人智に思いあがっている人間は
いつかその為に酷い罰を被る事があるのではなかろうかと思った」。
原発事故がそれだろう。

7 灰谷健次郎「わたしの中の水上勉さん」1997(平成9)年
「若狭に〔一滴文庫〕がある。行くたびに思うことがある。
金は、自分の欲に遣うものやない。金はこうして遣うもんや」。近代産業批判。
倫理を持った金の使い方。
私たちの文明には倫理が必要だ。 参照;http://itteki.jp/about/

別紙:姜尚中さん「思索の旅18768〜」18 第7章「動脈の槌音」<上>山梨日日新聞2016.11.21
「鉄道の拡大 はらむ懸念」揺らぐ「均衡ある発展」コピー資料
夏目漱石の発見ー
「滅びるね」漱石は明らかに、鉄道に、汽車に、文明の、そして近代日本の危うさを見て取っていたのである。(三四郎
「あぶない、あぶない。氣を付けねば、あぶないと思う」。(草枕
リニア中央新幹線
「地方創生に逆行するだけでなく、“均衡ある国土の発展”という年来の基本的な国づくりの在り方を
 事実上、放棄してしまうということになりはしないか」。

 長岡は田中角栄の地元だが、地方と都会を同じにするのが列島改造だったが、実際にはそうならず。
新幹線で地方が疲弊したことからも、その失敗はわかるはず。東京、大阪、掛川くらいが発展したのみ。
さらに人間が破壊される。そこに住んでいる人間として考えていかねばと思う。

8 茨木のり子「時代おくれ」(「倚りかからず」1999(平成2)年)
   車がない
   ワープロがない
   ビデオデッキがない・・・・けれど格別支障もない
   <中略>
   そんなに情報集めてどうするの 
   そんなに急いで何をするの
   頭はからっぽのまま  ・・・  
 参照;http://blogs.yahoo.co.jp/kmclub300/15865250.html


見事に言い得ている。まさに今のスマホ時代。日本総討死だ。

9 辻信一「スローイズビューティフル」2001(平成4)年

「物ぐさ太郎」「三年寝太郎」など、古典落語

「起きて働け」→時間経過→「金持ちになれば寝て暮らせる」=「もう寝て暮らしてます」
日本の働けという意見に、東南アジアからも言われたことだという。
寝ころぶことの価値「果報は寝て待て」という。
日本人は勤勉というが、元々は怠惰なのではないか、前近代の人には寝るのは大事なことだった。

近代化した国では寝ている事は罪であるかのよう。
ブータンでは子ども達の様子がまるで日本の昭和30年前後の感じ。
ブータンに信号をつけた方が良いと提案したら拒否された。
「文明に支配されたくない」という良識がある。
機械に支配されない→まさにスマホに支配されている現在の日本を思う。
「見え始めた終末」IT産業の止まることを知らない進歩について憂うる。

10 C・ダグラス・ラミス「経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか」2004(平成7)年


■パンフレットについて

国交省の鉄道部会が「高速性に優れている」を理由としてリニアを採用したが、日本語がおかしい。
「高速性の一点しか優れていない」のだから、在来線(安全性、ネットワーク性、コストなど)の方が優れていると言うべき。
これを見てもGOが決まっていて、単にそこまでの手続きをしているに過ぎないのがわかる。

3年間で環境影響評価(アセス)を終了した。
「286Kmを3年で済ませるなどあり得ない」と言ったらJR東海は「法に従ってやっているだけ」と答えた。

コンサルに丸投げしている環境アセスは、コンサルが事業者の気に入る範囲で作成するもの。仕事が欲しい。
コンサルは現地調査をせずに文献のみでアセスを作成、日本史上最悪のアセスと言われる。
なぜなら実態などどうでも良いからだ。

例えば「ミゾコイ」(環境省レッドリスト 絶滅危惧種)という鳥がいるが、コンサルは知らない。
住民に知らされてからアセスに加えたという程度の精度しかないアセス。
そもそもリニアの問題点について、参議院で話をしたが国会議員が知らない。
他の参考人は一橋大、神戸大の先生たちで、「経済効果、インフラとしてあった方がいいでしょう」という意見。
それ以外のことは何も知らない。ほとんど協議も検証もされずにここまで来ている。

■訴訟の論点
一つはこのアセス。
もう一つは全幹法(全国新幹線鉄道整備法/鉄道事業法)。
全幹法では「ネットワーク性」を重視しているのに、リニアは外れている点を追求。
参照;第一回口頭弁論期日 http://d.hatena.ne.jp/stoplinear/20160923/1474650018

100人来てくれるかどうか?と思っていたところ、230人も集まってくれて涙が出るほど嬉しかった。
法廷には入れない人たちもいた。遠くからマイクロバスで来てくれて入れない人たちに対して、
これからは配慮をしていきたいと思っている。

行政訴訟は行政が有利でおかしいと思う。
それは「自由裁量論」が重視されるからだ。
しかし基本は国民主権。その国民の意志を反映して執行するのが行政であるべきだ。
その「意志の反映」のところを考え直したい。司法に対しての問いかけとしても行なっていきたい。
参照;川村さんの意見陳述全文 http://d.hatena.ne.jp/stoplinear/20160925/1474795382

たくさんの人が詰めかけて裁判所に圧力をかけていこう。マスコミが無視できないものにしよう。

次回は12月9日14:30〜103号法廷にて

第3回口頭弁論は 2/24(金)14:30~
第4回口頭弁論は 4/28(金)14:30~

訴訟原告団HP http://linearstop.wixsite.com/mysite




川村先生のお話の後に、参加者から質問がいくつか上がり、川村先生やかけひさんが答えました。中には是非、このような話を外国人記者クラブで発表してほしいという希望もありました。引き続き、様々な機会を捉えて「日本文学・文化」の観点からみた「リニアの原罪」を川村先生に語っていただきながら、STOPリニアと裁判アピールを行ないたいと思います。

リニア新幹線を考える登山者の会」からは、署名活動の報告と来年に向けた活動のお話がありました。http://minamialps.mygarden.jp
引き続き署名を続けます、是非ご参加ください。

□リニア市民ネット東京のメンバーで、ナマケモノ倶楽部」http://www.sloth.gr.jp で活動している向逹さんが活動紹介。
「スモール」「スロー」「シンプル」
大きすぎない 早すぎない 多すぎない
「過剰」から「ちょうどいい」社会へ
経済(お金)より命を大切にする社会へ
(アンペアダウン STOPリニア 半農半X
脱原発 脱成長 グローバルからローカルへ
GNPからGNHへ 豊かさを問い直す

大田区議会議員でメンバーの奈須りえさんから、先日長野県大鹿村に視察ツアーを行なった際の写真展示を見ながら、報告を聞きました。

リニアが通る計画地、日本一美しい村 大鹿村を訪れました。
金儲けのために、自然と共に生きる人とその営みを壊す。これが、今の政治なんですね。
自然が失われますから、経済システムが止まれば、私たちは止まった経済と共に心中です。
美しい自然と生きる人を前に余計に恐ろしくなりました。
リニアの計画地大鹿村がどれくらい自然と共に生きているかといえば、コンビニがない、スーパーがない、というか、お店は食品雑貨を売ってる一軒とお土産屋さんくらい。
食堂も三軒で一軒は不定期営業でお休み。
泊まった宿の食事も、庭で採れたキノコや誰々さんの地鶏、岩魚…
産直なんですね。
リニアの計画地大鹿村の方たちと話していて、気になったのが、何のためか、何をしている段階か、きちんと説明を受けていないこと。圧倒的な情報不足。
これは、JR東海だけでなく、村長や行政や議会の姿勢にも問題があると思います。
運動は、法令や制度の理解や情報が重要ですが、出てきませんね。
リニア計画地、日本一美しい村大鹿村
リニア工事車両が10年にわたり月に1300から1700、残土置き場、道路、変電施設、送電鉄塔、作業員宿舎など、村の風景を壊す人工構造物がたくさん作られる。
ここを美しい村と呼べるだろうか。
*「リニアの計画地、日本一美しい村 大鹿村
https://www.facebook.com/nasurie/media_set?set=a.1194208277311388.1073741870.100001666817712&type=3&pnref=story.unseen-section



<販売図書>

・パンフレット「リニア・市民ネット リニア中央新幹線は疑問がいっぱい」\50
 http://blog.goo.ne.jp/ookute3435/e/6228f472d20aba7c9b9cd053c0388cfa
 (概要を紹介していただいているサイト)→ご購入の問合わせは下記へどうぞ
・「危ない リニア新幹線」リニア・市民ネット(編著)\2400+税 緑風出版
 5章は「スピードの原罪ー文明論としてのリニアー」で川村先生が著述されています。

問い合わせ;fwnp7112@mb.infoweb.ne.jp  リニア市民ネット東京 かけひ


             ・・・・・・・・・・・・・・・

[感想]
久しぶりに川村先生のお話を聞けて、胸がすく思いになりました。

スピードや金儲けを追求することがいかに人間の営みにゆがみをもたらしているか
が良く分かりました。

JR東海という一企業が、私たちの宝である「南アルプス」に穴をあけても良いものな
のか、
そんなことが許されるのか? いったん壊したらもう取り戻せない自然を破壊し、
貴重な動植物の生存を脅かし、山の水脈をずだずだにして、深刻な残土の問題を生
み、
大量の電気をつかい、電磁波をばらまき、静かな美しい村の景観を壊し、静けさを奪
い・・・な〜んにもいいことないのに、どうして当たり前のように工事が始まるの
か?
不思議でなりません。

多くの人がリニアのことを知らない。「夢のリニア」と思わされている。

だから、今、私たちが「ダメ!」「やめて!」「リニアは要らない!」と言い続け、
まわりに広げて、その声をもっともっと大きくしていかなくては!と思いました。

日本人だけで変えられないなら、海外に広く訴えてみたら?という意見がでました
が、やってみる価値あるかも・・・。

リニアによる破壊を地球規模の問題として世界中の人に考えてもらったら、
どうでしょう? 当然、「No!」でしょう。「No!」の大合唱になるといいな。

                   リニア市民ネット東京 薮玲子