リニア・市民ネット<方法書 意見書>

リニア計画・環境アセス 方法書に対する意見書 
 
リニア・市民ネット事務局で、リニア計画の方法書に対する意見を提出しました。

中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価方法書に対する意見書

 本年9月末の方法書の公告・縦覧により、リニア中央新幹線計画の環境影響評価手続きが開始した。本方法書は、下記の事項において重大な欠陥・課題があるものとして、以下の意見を提出する。

 事業者は、リニア計画そのものが大規模で急激、かつ甚大な環境改変であることを重く受け止め、将来に及ぶ一切の負の遺産とならないよう適切な評価の実施を求める。またその上で、今後環境への悪影響のおそれが明らかになった場合、速やかに計画を白紙撤回・中止するべきだ。

<環境影響評価の手続きについて>

○東京―名古屋市間のリニア計画の環境影響評価は、延長約286キロ、7都県に及ぶエリアを同時に実施するものである。これほど広範に及ぶ環境影響評価は、これまでの公共事業でも前例がない。わずか3年弱の手続きで、適切な評価を全てにおいて実施・完了できるのか。また、十分な情報公開のもとに、住民の合意形成を築くことができるのか。2014年度着工に向け、早期実現、早期着工が大きな推進力となっているが、形式のみの環境影響評価をするべきではない。

○方法書前の事前調査について
リニア計画では、今年5月の整備計画決定以前に山梨県早川町、長野県大鹿村にて既にボーリング調査が行われた。また、早川町側では3キロに及ぶ南アルプスのトンネル試掘が完了している。このような方法書前の事前調査は、本来禁止されるべきである。違法性は生じていないのか。事業者の見解を求める。

○方法書を再提出すべきである

・6月、8月に実施された「計画段階環境配慮書」では行政、一般意見が提出され、本方法書の第6章に掲載されている。しかし、ここでは、環境影響評価における新たな有効的な手続きとして得られた多くの意見に対し、「今後適切な対策を行う」「今後明らかにする」と主観的かつ一方的に回答している。今後の評価の方法を定める方法書の段階としては、これらの意見が実際の調査・予測・評価に、どの部分が、どのように、どの程度反映されていくのかが、極めて不透明で不十分な情報である。また、方法書においては、代替案の検討、列挙も必要不可欠な行程であるが、殆ど示されていない。

・今段階で一般からも多くの情報の不備が指摘されている中、今後方法書を修正した段階で、再提出と再公表をすべきだ。また、方法書で得られた意見書の概要も準備書公告以前に早急に取りまとめ、公表しなければならない。

南アルプスは、長大トンネル掘削と超膨大な残土処理、斜坑の設置、関連土木工事等により、自然景観の悪化をはじめ、地下水への影響による地表環境の悪化、河川の汚濁や水脈の変化、またそれにともなう絶滅危惧種や希少植物への影響などは避けられない。自然が長い年月をかけてつくりあげた生態系はひとたび失われれば、2度と元に戻らない。

・方法書では、事後調査、モニタリング調査を実施するという言葉が並べられているが、既に著しい生態系改変と影響が明らかである。今後多くの専門家の参画により、環境悪化の未然防止のために、環境影響評価そのものの期間・内容を充実させ、実施されるべきである。

○東京―名古屋市間の南アルプスルートには、豊かな自然生態系、水資源、歴史的建造物等が多く残されており、またその中に人々の生活環境が築かれている。リニア計画の全線は8割がトンネルであるが、南アルプス大断層をはじめ、多くの活断層を直線で通過することが避けられない。環境影響評価の方法書として本来有効的である複数案の検討には、超電導リニア方式の導入の適否、南アルプスルートの再検証(生態系・安全性)も含めたノーアクション案(事業を行わない案)も含めるべきである。

<方法書の縦覧について>

東海道新幹線の沿線各駅、車内においても環境影響評価の情報を幅広く周知すべきである

・方法書は、新聞折り込みを通じて地域住民、また自治体等での縦覧、事業者のホームページにて公開された。しかし、新聞折り込みによる配布では、一部の住民にしか情報が行き届いていないことが、説明会の参加人数や住民意見からも明らかであった。これほど大規模な公共事業について、国民の関心が低いことは、事業者側の情報の周知不足にも大きな原因がある。

東海道新幹線の沿線各駅(特に対象事業実施自治体)の駅構内、及び車内には、なぜ情報が掲示されないのか。「東海道新幹線の老齢化による大改修の必要性」「大幅な高速化、時間短縮のニーズ」というリニア計画の目的・概要とともに、環境影響評価の実施の情報を掲示すべきである。地域住民や行政に限定せず、東海道新幹線の利用者を含め、より幅広く一般意見聴取に努めるべきだ。また、東海道新幹線の利用者にとっては、計画そのものは勿論、名古屋までの路線が実際の利用にどのように影響するのか、大規模改修の予定等、計画段階から重要な情報をもっと周知されるべきだ。準備書の縦覧の際には、必ず実施されたい。

<電力について>

○エネルギーについては、温室効果ガスが位置付けられているが、電力消費量も明確に位置付け、工事時、供用時の調査・予測・評価を行うべきである。昨今の電力逼迫状況においては、シールド工法による大深度地下トンネル掘削は、膨大な電力を消費することが予測される。

○「送電施設については、関係電力会社が建設するため本事業とは別に協議が行われることになると考えている」とあり、また「中央新幹線が開業する時期には、国民生活や日本の経済社会に必要不可欠なインフラに要する必要な電力は確保されるものと考えている」とある。しかし、2014年度と予定されている本格着工前に、リニアの消費電力について電力会社や関係省庁との協議を進め、国民に情報を公表することが必須である。
(東京―名古屋、東京―大阪間の路線で全編成が1日走行した場合の全使用量、始動、加速時のリニアの最大瞬間消費電力、必要な変電所の規模や位置、送電網等も含めた電力情報の詳細)

国土交通省中央新幹線小委員会でも、事業者はそのエネルギーを東京電力中部電力を供給源にまかなうと公表している。また、リニアの消費電力について「東京―名古屋 27万KW ピーク時:5本/時間東京―大阪 74万KW ピーク時:8本/時間」との資料が出された。しかし、専門家によると,“ピーク時は新幹線の40倍”、“原発数基分に匹敵する”という見解もある。

東日本大震災福島第一原発震災を受け、日本全国の原子力発電所安全性と意義が問われている。2027年開業目前に必要な電力を調整するということは、事業者側にとっても多大なリスクである。ましてやリニア計画に原発の利用が付随するならば、計画そのものに社会の公正な判断が求められる。

・特に今後30年間の発生率が87%とされる東海地震に備え、安全基準そのものが問われている浜岡原発の再開については、リニア建設にともなう電力需要を優先事由に再稼働されることがあってはならない。

<安全対策について>

地震発生時の安全対策、電力の調整などは別途協議するとされているが、その他別途協議されるものにはどのようなものがあるのか。それらは、本格着工前に実施されるものなのか。これらをすべて列挙・明示し、それぞれの工程表を示すべきである。