リニア 連絡会「大深度工事で調査を」など川崎市に申し入れ(3/2)報告

3月2日、リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会が、川崎市に申し入れを行いました。
以下、報告を転載。

リニア新幹線大深度トンネル工事について川崎市長と市議会議長に申し入れをしました。
午前11時からはまちづくり局と環境局の担当課長との合同ヒアリングを行い、午後1時から市議会各会派に申し入れ書を手渡し、午後2時からは記者クラブで記者会見を行いました。出席の報道機関は、毎日新聞東京新聞日経新聞、神奈川新聞、産経新聞(幹事)でした。本日の東京新聞に記事(添付)がありました。(末尾参照)

 <申入書>

川崎市長 福田紀彦様

川崎市議会議長 山崎直史様

            リニア新幹線(中央新幹線)の川崎市内工事に関する要請書

              リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会 共同代表 天野捷一、山本太三雄、矢沢美也

                                                                                                                                              2021 年3月2日

(はじめに)

JR東海によるリニア新幹線(中央新幹線)工事は、都市部の非常口建設や南アルプストンネルの

掘削準備工事が進められていますが、沿線では発生土処分場の未定や地下水の噴出や地盤崩落事故等も あり工事が遅れています。また、静岡県では、大井川水系に流れる地下水が南アルプストンネル工事で 失われることが予想されていますが、JR東海の復旧対策が十分ではなく県や県民の理解が得られず、 県内のリニア工事が始められていません。JR東海は2027年の品川・名古屋間の開業が遅れること を表明し、開業予定年も明らかにしていません。

新型コロナウイルスの感染拡大は様々な産業にマイナスの影響を与え、とりわけ鉄道業界は深刻です。 JR東海の3月期連結決算では、売り上げは前期比の43%と減少し、営業損益はマイナス2440億 円の見込みです。仕事の進め方もリモート型が普及し、2008年をピークに減少し続ける鉄道利用客 はコロナ禍が収まった後に回復する見通しも立たず、9兆円以上もかけるリニア新幹線は将来性がない という声が高まっています。

こうした状況の中で、東京外環道路トンネル掘削工事において重大な陥没事故が発生し、住民への 様々な被害をもたらしました。川崎市内でも21年度にはシールドマシーンによる大深度地下のトンネ ル工事が開始されようとしており川崎市民として他人事ではありません。

   つきましては以下の点につき、川崎市に要請いたします。

(要請事項)

1.東京外環道工事による道路陥没などの被害を重く見て、川崎市内のリニア新幹線大深度工事について、JR東海に詳細なボーリング調査を実施させ、シールド工事の安全対策の提出と、ルート上およびその周囲の全戸の家屋調査を実施し、データを公開させること。

2.市内の大深度工事の安全性、工事期間、建設発生土の搬送・処分について市の環境影響評価条例に基づく審査を行うこと。
3.(
1 の懸念から)リニアの大深度工事による川崎市導水隧道管、水道・ガス等ライフラインへの影響について詳細な調査・分析を行うこと。

4.JR東海に、現在行われているリニア新幹線非常口工事の建設発生土の搬送ルートと処分先を明らかにさせること。

5.リニア新幹線工事の遅延による東扇島堀込部土地造成事業への影響が必至である。平成30年3月20日締結のリニア発生土に関する協定を白紙に戻すこと。

6.リニア工事に関する進捗状況や今後の工事日程等に関する詳細な情報を市民に公開すること。住民説明会を 開催させること。

 

(要請理由) 1.JR東海は首都圏、中京圏大深度地下トンネルの掘削工事を2021年度から始めることを明らかにしています。しかし、昨年10月18日に東京外環道の大深度地下トンネルのシールド工事が原因で、 東京・調布市の住宅街で道路が陥没し現場周辺の住宅に多くの被害が起きました。事業者のその後の調査 でさらに地下3か所に空洞が見つかり、ガス漏れや下水道管への被害も確認されています。大深度地下工 事の影響は広まり、住民の不安は限りなく高まっています。

東京外環道大深度トンネル工事では、住民が、掘削前から地上への影響を不安視して工事中止を求 める声をあげましたが、国やNEXCO東日本は、住民に対し「大深度地下の工事は地表への影響はな い」と言い続けシールド工事を強行しました。東京・世田谷区では着工からすぐに野川の川面に酸欠空気が 噴き出すことが確認され、今も地下からの酸欠気泡の発生が続いています。そして今回は、国と事業者が具体 的な地表への影響を軽視し無理やりにトンネル工事を継続した結果、陥没事故や空洞発生が起きて調布市民 に対し重大な被害と不安を昂じさせることになりました。

また、今回の被害により、現場周辺の不動産の売買も「取引が成立しない」という状況が生まれ、「大 深度だから地価への影響はない」としてきた事業者の判断が誤りだったことを示し、住民が危惧していた財 産権への影響が具体的に明らかになりました。調布市長と市議会議長は道路陥没事故直後に連名で、「事 故の発生は誠に遺憾であり、原因究明と住民に対する説明を行うよう要望する」というコメントを出しま した。しかし、調布市には、住民から「騒音がする」、「家が揺れる」、「壁にひびが入った」などの苦情が、道路陥 没事故前に多数寄せられていたのです。

そもそも大深度トンネル工事による地表への影響について、外環道工事に関連する自治体は事業者任 せで、環境影響調査や工事状況に積極的に関心を寄せ、住民生活や環境保全について適切な助言や指導を 行ってきたとは言えません。一貫して、NEXCO 東日本の工事計画の説明や進捗情報を、疑問を持たず にただ受け止めるだけの姿勢だったのではないでしょうか。

2.私たち川崎市民は、リニア新幹線の大深度工事の地表に及ぶ危険性や、ルート上の不動産価格への影 響、川崎市導水管に与える危険性、さらに非常口および市内16キロ余りの大深度トンネル工事の建 設発生土の運搬や処分について疑問や問題点の提起をしてきました。もちろん市議会に対しても請願 や陳情を繰り返してきました。

特に、大深度トンネル工事の危険性について、「大深度だから地表への影響はない」というJR東海の 説明には実証的な根拠がないと言い続けてきました。不幸にも、今回の外環道の工事による道路陥 没事故は大深度工事が決して安心できるものではないことが明らかにされたのです。

JR東海川崎市内の5か所の非常口と16.3キロの大深度トンネル工事の地質・地盤調査を13 2か所のボーリング調査をして、地盤が強固であり地表への影響はないと判断したと説明しています。

しかし132か所のうちJR東海がルート上でボーリング調査をしたのは7か所だけであり、90か所は 民間のマンション工事で実施された浅深度のボーリング調査の資料である可能性が高いのです。より詳細な 調査を実際に行わなければ、東京外環道の大深度工事による陥没事故や地下水への被害と同様な事故 が起きることが十分に予想されるのです。

外環道工事について、事業者は広範な家屋調査を行いましたが、リニア新幹線のルートと周辺の家屋調査 は、東百合丘非常口から30メートル周辺で行っただけです。リニア工事に適用されている大深度法では、 「もし工事から1年以内に被害があった場合は、それが工事の影響であると認められた場合に補償を行う」 とされています。家屋調査が行われていない場合は地権者が自らの手で被害と工事との関連を立証しな ければならない状況も生まれかねません。従って、外環道事故を踏まえるならば、川崎市内のルート上、 周辺の家屋調査は工事前に必須のことであることは言うまでもありません。

川崎市長、市議会のリニア新幹線事業に対する姿勢は巨大な自治体のトップとして消極的ではないでし ょうか。リニア新幹線大深度トンネル工事について、JR東海に対し市の環境影響評価条例に基づく詳細 な保全対策を出させること、ルート上のより細かい地質・地盤調査を行い、合わせてルート上の全戸の家 屋調査を求めることなどは直接自治体として当然のことです。

3. リニア新幹線沿線地域の住民とリニア工事や供用の影響を心配する人たち780名が原告となって、 国交大臣の中央新幹線工事実施計画の認可を取り消すよう求めて東京地裁に提訴してから5年(第二次 訴訟からは2年)になろうとしています。東京地裁は昨年12月に原告適格に関する中間判決を示しまし た。残念ながら沿線以外に居住する532 人の原告適格を取り消すという不当な判決でしたが、川崎市在 住の原告全員の適格を認めました。判決文で裁判長は、川崎市は「水質の汚濁に関し、本件(リニア新幹 線)環境影響評価において調査の対象となった水源の水を飲料水、生活用水又は農業用水として利用して いる地域」と認め、川崎在住の原告80数名に原告適格があると判断したものです。この認定の根拠は、川 崎市民が神奈川県の相模川、酒匂川水系から2本の導水隧道で送られてくる80万立方メートルの飲料水 に依拠しているからです。

リニア工事が原因で水源が汚染されるか、あるいは工事によって導水隧道が破損した場合は、川崎市 民は飲み水を失うことになります。川崎市の導水隧道は相模原市内2か所と、町田市・川崎市麻生区の2 か所でリニアのトン ネルと交差するか近接することになっています。私たちがリニアトンネルと導水隧道 近接について問いただしたところ、川崎市上下水道局は「JR東海事前協議を行い、リニア工事が導水隧道 の安全に影響することはないという回答を得ている」と答えました。但し、相模原市橋本台3丁目では、土 被り38メートルにある外径3.7mの第2導水隧道のわずか4メートルの上方に直径14メートル余 りのリニアトンネルが作られることになっています。外環道の道路陥没事故をみても、影響がないとは 到底断言できません。

静岡県では県民62万人分の生活用水が失われるおそれがあるとして、知事がJR東海に対し対策が十 分でないとして県内のリニア工事の着工を認めておらず、お茶の栽培農家らが工事差止の裁判を起こしています。人口150万の川崎市民の生活をまもるため、川崎市が国とJR東海に対し、工事の安全対策を 積極的に求めていくのは当然のことではないでしょうか。

4. これまでの非常口工事の発生土の搬送にも大きな問題があります。梶ヶ谷非常口からの建設発生土は川崎 港のふ頭に貨車搬送されていますが、これとは別にほかの非常口現場からは建設発生汚染土が横浜の鈴繁 ふ頭に陸送され船に積み込まれていることが明らかになっています。JR東海が説明しないのであれ ば、市が搬送先や輸送ルート、処分先までを把握し市民に説明するのが当然ではないでしょうか。

5. 現在、静岡県内は言うまでもなく、沿線各地でリニア新幹線工事の遅延が明らかにされています。場所 によっては5年も遅れているのです。川崎市は平成30年3月、JR東海との間で、梶ヶ谷非常口から排出 される大深度トンネル工事の発生土140万立方メートルを川崎港東扇島埋立事業に活用する協定を結びま した。その事業にはJR東海が200億円の支出をし、市も40億円を支出する内容です。埋め立て地の 造成が完了するのは2032年と予定されています。私たちは2018年、輸出用自動車や仮倉庫への活 用という目的を達成するための財政的展望がないとして、この工事への市の支出を中止し、すでに支払っ た金額を戻すよう求め川崎市監査事務局へ住民監査請求しました。しかし、短時間の審査で市は私たちの住 民監査請求を棄却しました。もしリニア工事が遅延し、発生土の活用が遅れればこの埋め立て事業計画にも 大きな影響を与えます。今すぐにでもこの事業を見直すべきであると私たちは考えます。

6. 最後に、JR東海川崎市民に対する対応姿勢は、次のようにひどいものです。 市内における説明会では参加者を制限する、一方的に撮影や録音を禁止、質問も3問に限り再質問は認め

ないなど、住民の質問には丁寧に答え、理解を求めたいという真摯な姿勢に欠けています。 麻生区の片平非常口周辺の住民に対し工事用道路建設への同意を強要したため、生活環境悪化に耐えられ ない住民が転居する事態も起きています。また、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、道路工事計画 の説明会を開催せず、周辺への資料配布で済ませ、説明は済ませたということもありました。市はこうし

た住民説明会の持ち方について、JR東海に改善を指示できる立場にあります。 新型コロナウイルスの感染拡大によって神奈川県にも2度にわたって緊急事態宣言が出されました。

現在は2度目の緊急事態宣言の渦中にあります。この時期に多数の住民を集めた説明会を開くのは無理 です。また事前に資料配布を行うのは当然ですが、それはあくまで説明会の資料であり、感染拡大が収 まった時点で説明会はきちんと開いて住民に具体的、丁寧に説明すべきです。

以上

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